耕作放棄地の崩れた棚田をそのままで再生してみる#7田んぼに生き物がやってくる

冬の寒さがやわらぎ、ゆっっくりと暖かくなる。
薄茶色い景色に、点々と黄緑色の新芽が次々に芽生える。
かじかんでいた体もゆるんで、呼吸するたびにホッとする。

と思っていたら、急に寒くなる。
と思っていたら、急に暑くなる。

なんだか、おかしな気候だなあ。
まだ冬なんだか、いつのまにか夏が来たのか、いったい春はどこに行ったの?
人間にはわからなくても、生き物たちは春を迎えている。

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田んぼに生き物がやってくる

開墾している冬の間、水辺の生き物を見かけたことはなかった。

田んぼと言っても、冬の間は水が涸れ、水たまり程度。
春から徐々に水量が増え、夏は勢いよく流れ続ける。
そして、初秋には徐々に水量が減り、稲刈りの時期には湿っている程度になる。
これが、お山の棚田ではいつものサイクル。

棚田が崩れてしまわなければ、水量を調節できたかもしれない。
今は、崩れたまま自然がつくった通り道に沿って、
山水はチョロチョロととどまることなく流れ続けている。

開墾を始めたころは、冬のとても寒い時期で、
草木の陰に潜んでいる虫だけが時折姿を現した。
私はというと、ダウンコートの下にフリースを着込んで、
「さぶっ」と言いながら、竹藪と格闘していた。
だんだん汗が噴き出してくるけれど、帰り支度をしている間にもっと寒くなる。

4月に入ってからも寒暖は繰り返していて、春なのに春じゃない気候を感じていた。
このまま夏になっちゃうんだろうな。
けれど、鈍感なのは私という人間だけだった。
気がつけば、足元の水かさは増していて、何かがチョロチョロとたくさん動いていた。

耕作放棄地の棚田再生 オタマジャクシとアメンボ

あ、オタマジャクシだ。
アメンボもいる。

耕作放棄地の棚田再生 サワガニ

サワガニだ-。

イモリだー。

いったい、どこからやってきたのだろう?
つい、この前まで竹藪に覆われた荒れ地だった。
田んぼに生き物がやってきてくれた。
こんな、無造作に草木を刈り倒しただけの田んぼに生き物と春を迎えた。

田んぼに生える春の草

寒々しい景色がゆっくりと色づいてきた。
緑色にもいろいろあって、どの色にも日本の情緒あふれる名前がついている。

ホトケノザ(タビラコ)でしょうか。
伝統色、萌黄(もえぎ)と鶸萌黄(ひわもえぎ)の濃淡が春らしい色合い。

ハコベに見えますが。

セリに見えますが。

こうしてみると、春の七草が揃っていますね。

こちらは、カラスノエンドウとオオイヌノフブリ。

露草色と若草色が混在。水玉模様のよう。

自然の色を表現する伝統色が春を教えてくれて、日本の景色に情緒をつくってくれる。
棚田を開墾して、この景色に巡り会えた。

枯れ木と竹しかなかったところに、荒れ地から春の草が芽吹く。

そして、今から、この春の草を自然の恵みとなるよう刈っていく。

田植えの準備は草ひきだけ

トラクタで耕し、代掻きをするのが正しい田植えの準備。
畦塗りだって、水が抜けないようにするには必要な作業。
だが、私には時間がない。
トラクタも持っていなければ、トラクタが通る道もない。
というわけで考えたのが、手作業で草ひきである。

なんのこっちゃない。
備中鎌で草を刈るのではく、ひくのである。
ほどよく水量が増した田んぼの土はトロトロになっていて、
力を入れなくてもヒョイヒョイと草がひける。
草が生えているところに備中鎌を持って歩けば、草ひき完了。
1時間ぐらい、ヒョイヒョイして、
苗を植えようと考えている範囲は代掻きのような状態にできたかもしれない。
あくまでも、代掻きもどきではあるが。

水が抜けるのは気にしない。
苗の成長に水が必要な時期は、山水が流れているはず。
水が流れ続けていれば、ガスの発生も抑えられるはず。
すべては、自然のままに。

あいかわらず、むちゃくちゃではある。
でもまあ、田んぼらしくなってきたのではないかと思う。
満足げな私のとなりで、元農家の母は苦笑いしている。
かつて慣行農法で農業を営んでいた母にとって、
自然農に理解はできても、できっこないよという感覚は抜ききれない。
それでも、私のやり方を呆れつつ、おもしろがっている。
「自然農すぎるんじゃないの」と。
私も、そう思う。